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横浜地方裁判所 昭和53年(タ)171号 判決

原告 甲春雄

右訴訟代理人弁護士 日下部長作

右同 内山辰雄

被告 横浜地方検察庁

検事正 木村治

主文

一  原告が訴外亡乙太郎の子であることを確認する。

二  訴訟費用は国庫の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  主文一項同旨。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の父亡乙太郎と母訴外甲花子とは昭和一九年九月日本において結婚式を挙げて夫婦となり、それ以来事実婚(内縁)関係にあったところ昭和三八年六月一二日婚姻届をして法律上の夫婦となったものであるが、原告は、昭和二八年一二月二六日、亡乙太郎と訴外甲花子の間の子として出生した。

2  亡乙太郎は、昭和四〇年三月九日、死亡した。

3  ところで戸籍上亡太郎から原告に対する認知の届出はなされていないが、訴外甲花子らは昭和四五年三月五日日本に帰化するまでは韓国人として外国人登録法による登録がなされ、原告も亡太郎の二男として届出登録されていたものであるが、同法の登録は戸籍の記載に代るべきものであるから、原告はこれにより亡太郎により実子として認知されていたものというべきである。

4  よって、原告は、被告に対し、原告が亡乙太郎の子であることの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、原告が昭和二八年一二月二六日訴外甲花子の子として出生した事実は認め、その余の事実は知らない。

2  同2は知らない。

第三証拠《省略》

理由

《証拠省略》によれば、原告主張の請求原因1、2の事実及び3の事実中原告主張の帰化及び外国人登録法による登録の事実を認めることができ他のこの認定を左右するに足る証拠はない。

ところで右事実からすると原告の母訴外甲花子は昭和四五年に日本に帰化するまで、亡太郎は生存中ともに韓国人であったところ、昭和一九年九月日本において挙式して事実上の夫婦となり事実婚(内縁)関係に入ったが、昭和三八年に至るまで婚姻届をしなかったため、法律上の夫婦とは認められず、その間に出生した二男原告も婚外子となったが、これが準拠法である韓国法によれば、婚外子と父との法律上の父子関係は父の認知により生ずるものとされ(民法八五五条)、そしてこれが認知は戸籍法上の届出によりすることになっている(同法八五九条)ところ(行為地法である日本法によるとしても戸籍法の定めるところに従い届け出ることになっている。)、本件で亡太郎がこれが認知の届出をしたことはこれを認めるに足りない。なおこの点につき原告はさきの外国人登録法による登録を以てこれに代えうる旨の主張をしているがそれが要式行為とされている趣旨に鑑みれば原告のこの点の主張は到底採用できない。

ところで前記からすると原告は父母が事実上の婚姻をし、その同棲中に出生したものであるところ、もともと事実婚(内縁)は婚姻に準ずる法律関係としてこれにつきできる限り婚姻に関する規定を類推適用するなどして法の保護を与えるべきことは異論がなく、そして子の嫡出性についての準拠法である韓国法によれば、妻が婚姻成立の日から二〇〇日後又はその解消の日から三〇〇日内に生んだ子は夫の子と推定される(民法八四四条)ところ、これは夫婦は同居し、互に貞操の義務を負うといった夫婦共同生活の実質にもとづき婚姻中の懐胎子につき父性の推定をしたものであり、そうだとすると事実婚(内縁)についても婚姻届の有無という点では異なるとはいえ、夫婦共同生活の実質は婚姻と何ら異なるところはないからこれを類推し、事実婚(内縁)関係にある妻が同関係成立の日から二〇〇日以後、解消の日から三〇〇日以内に分娩した子は事実婚(内縁)関係の夫の子と推定すべきである。そしてこれが推定は単なる事実上の推定にとどまるものではなく、法律上の推定と解するのが妥当である。それ故これが推定を受ける子と右の夫との間には認知を待つまでもなく法律上の父子関係があるものというべきである。そして後日父母が婚姻すればその子は準正子として嫡出子たる身分を取得するものというべきである。

このように解すると嫡出でない子と父との父子関係が認知によって発生するとの前記法律の建前に反することとなるが、右の子と母との母子関係が明文規定にもかかわらず認知を待たず出生の事実のみによって発生すると解すべきことは今日では学説判例上もほぼ異論のないところであり、右の子と父との父子関係の発生についてもこれと同様右の建前の例外の場合と解すべきである。

ところで以上のように解しても戸籍上母の非嫡出子として記載され、かつ父の認知もなされていない場合には準正によっても当然には夫婦の子として戸籍上記載されないであろうから、この場合には子の方から、父母が事実婚関係にあったこと、自己が同関係成立の日から二〇〇日以内、その解消の日から三〇〇日以内に出生したこと、父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したものであることの公権的確認(認知の裁判ではない)を得た上で戸籍の訂正を求めることになる。

以上からすると原告は法律上亡乙太郎の子であることが明らかであるからこれが確認を求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担につき人事訴訟法第一七条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松井賢德)

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